はじめに
アークナイツはイベントごと,または主要なキャラクターに合わせてイメージソングが作られる.
どれもハイクオリティで楽曲の公開を楽しみにしているプレイヤーも少なくないだろう.
さて,今回和訳に挑戦した『Magic Theorem』(訳:魔法の定理)は SIDE STORY「翠玉の夢」で初登場したライン生命の若き天才 ドロシーをイメージした曲となっている.
躍動する生命の旋律が胸の奥に広がっていく。
振動と意識、魔法と奇跡。
One plus one, just me and you.
万物の「Magic Theorem」
https://www.youtube.com/watch?v=tpPTSDfp4Ow
動画詳細より
※本和訳記事は,公式が発表しているガイドラインに基づき作成しております.不備等がございましたらお手数ですがお問合せページからご連絡をお願いいたします.
楽曲情報
作詞:Adam Gubman
作曲:Adam Gubman
歌:Sarah Kang
リリース(日本):2022/3/22
登場作品:アークナイツ(Hypergryph · Yostar スマートフォン向けゲーム)
歌詞(和訳)
以下の和訳はサイト筆者が書いたものであり,公式からの情報ではないことにご注意ください.
When the sun fades out of sight
Constellations come to life
The serotonin keeps us floating
We contemplate our lives
Tho the numbers, safe and sound
my hypotheses abound
I’ve got a theory
You’re there with me
Transcending data found
太陽が隠れ
星座たちが輝きだす
セロトニンのおかげで気分はふわふわ
自分の人生を見つめて
数字は噓をつかないけど
まだ立証できない説ばかり
理論ならあるわ
私と一緒にいてね
びっくりするような結果を見つけるの
Take a picture, don’t forget her
Let it linger in your view
The formula for finding magic
One plus one, just me and you.
写真を撮って,彼女を忘れないように
瞳に焼き付けて欲しいの
これはね 魔法をかける方程式よ
1+1, 私とあなただけ.
Falling for a simple dream
a theorem of a fantasy I
live fully
飾らない夢に落ちていく
幻想的な定理
私は人生を謳歌できているわ
If patterns prove us right,
More than particles and light,
It’s simple science
full compliance
It keeps me up at night.
私たちの正しさをパターンが証明してくれるなら
それは粒子や光なんかよりも
もっとシンプルで
もっと間違いのない科学なのかしら
だったら夜も眠れなくなるわね
Take a picture, don’t forget her
Let it linger in your view
The formula for finding magic
One plus one, just me and you.
写真を撮って,彼女を忘れないように
瞳に焼き付けて欲しいの
これはね 魔法をかける方程式よ
1+1, 私とあなただけ.
Falling for a simple dream
a theorem of a fantasy I
la la la la
live fully
飾らない夢に落ちていく
幻想的な定理
私はちゃんと生きているわ
Life is a gift to me, I’m here for it
Like a smile at a party, I swoon
Measure time by the moon
Is it over too soon
人生は贈り物,私はそのためにここにいる
うっとりとしているの,パーティでみせる微笑み みたいに
月が時間を告げるの
もう終わっちゃうのね
Take a picture, don’t forget her
Let it linger in your view
The formula for finding magic
One plus one, just me and you.
[x2]
写真を撮って,彼女を忘れないように
瞳に焼き付けて欲しいの
これはね 魔法をかける方程式よ
1+1, 私とあなただけ.
Falling for a simple dream
a theorem of a fantasy I
la la la la [x2]
飾らない夢に落ちていく
幻想的な定理
私は
曲の意味
以降 SIDE STORY「翠玉の夢」の内容に踏み込んだ話もあります.ネタバレ注意!
↓↓↓↓↓
作中では「平等にしてみんなを幸せにする」という目的で人道的とは言い難い実験に手を出してしまったドロシー.一方でその根底には,彼女の理想を描いた夢の世界があったのだろう.
この『Magic Theorem』もそんな夢の中にいるかのように感じさせるまったりとしつつどこか陰のある曲調,歌詞が特徴的と思える.
今回は筆者がこのイベントストーリー自体が好きなのでちょっと長い考察をしていくよ.
曲の流れ
曲がどのような流れを持っているのか.
私は夢に落ちていく⇒夢の中⇒目覚めとなっていると考えた.
理由について,用いられている手法と歌詞から考えてみた.
冒頭
この曲は筆者の耳がおかしくなければLo-Fiという手法(?)が冒頭に用いられている.
Lo-Fiはわざと音質を落とすことで,ノスタルジーを演出したり,曲の切り替えを意識させたりする効果がある音楽における手法の一つである.
『Magic Theorem』に関して言えば,
0:32あたりまで ボーカルも含めた音全般
0:54あたりまで ボーカル以外の音
におそらく使われている(0:54以降ももしかしたらかかっているけどちょっと分からなかったごめんなさい).
0:32あたりまでは明らかにボーカルの声がラジオみたいなノイズの入ったくぐもった音になっている.
0:54までは,ボーカルの声は以降と同じくらいクリアになるが,バックの音楽は昔のホームビデオやレコードを思わせるぷつぷつと鳴るノイズが入っている.
Lo-Fiが使われている冒頭は流れで言うなら夢に落ちていく部分である.
Lo-Fiが持つノスタルジーな雰囲気やリラックスできる音により過去を思い出しながらゆっくりと夢へ落ちていく……そんな風に捉えることができるのではないだろうか.
この一連の流れを言葉による説明なしに再現できるというのは音楽の良さであると思う.
終盤
ここで夢からの目覚めを表現していると思うのだが,その理由は歌詞からみえてくる.
Falling for a simple dream
a theorem of a fantasy I
live fully
↑の歌詞がサビの最後に合計で3回流れる.
注目したいのは1,2回目は”I live fully”まで歌いきっているのに対して,最後の3回目については”live fully”を歌うこと終わる点だ.私はここを
夢の中では人生を謳歌できている(=夢の中なので理想通りになるのは当然)
↓
夢から醒めたから完璧な人生は歩めていない
となっているのではないかなと捉えた.また,最後については完璧な人生は歩めないが”la la la”と続くようにそれが決して悪いことだけではないという明るい未来も提示されているように思えた.
誰目線の曲なのか
この曲は誰目線(誰から誰へ)が結構難しい.というのもストーリーにおいて,「伝達物質」が出てきてしまったので,それが関わってくると明確な個人を示しているとも言えないからだ.
ここでは,紆余曲折考えながら私はどう思うようになったのか過程を示した.
参考にしたり,しなかったりして読んでくださっているあなたの考えをまとめる一助になればと思う.
説1:ドロシー⇒伝達物質内の人たち
これが一番すぐに思いつきそうかつ正しそうではある.
曲中の”I”はドロシーだし,”You”は伝達物質の中に取り込まれた人たちであると捉えてみる.
“I”という一人称が使われている歌詞についてはドロシーであると考えられる内容だ.
この説でいく場合,”One plus one”という歌詞に注目したい.
ここが個人的なドロシーヤバいポイントで,“You”を複数としてではなく,単数形(中の人ではなく伝達物質のみ)で見ていることが分かる.つまり,この曲においてはまだ「みんなを一つにして平和にする」ことを願ったままのドロシーであると考えられる.
また,おかしな点として以下の歌詞にも注目.
Take a picture, don’t forget her
もしドロシーからの目線だとしたらこの”her”は誰なのか.
母親……とも考えられなくはないが,そもそも母親を他の人にも忘れて欲しくないと思うのは違和感を感じる.というわけで,この説では“her”が誰なのかという矛盾点が残る.
説2:伝達物質⇒ドロシー
この場合,説1で示した矛盾点を解消できる.また,説1で触れた「ドロシーヤバいのでは」という考えも一応無くなる.
一方で,”I”(私)に関する歌詞について,伝達物質の人たちの目線にしてはずいぶん知的な歌詞(セロトニン,粒子や光など科学,工学に関する単語)が多い.ということはつまり……
説3:伝達物質(ドロシー含)⇒プレイヤー
この説に行き着いた.強引だがこれで矛盾なく歌詞を捉えることが出来そうである.
この説を説明する前に,そもそもの私の伝達物質に対する前提を説明しなくてはいけない.
前提として,
伝達物質の考えは,中の人の思いを総合した出力である.
この考えでいきたい.理由として,イベント中に伝達物質がドロシーを守ろうとしたのは中の人たちが皆ドロシーが好きだったからという説明があったからだ.
簡単に言えば,伝達物質の中の人の思いの合計値が,最終的な伝達物質の個としての思いとなるという考えだ.機械学習で言えばアンサンブル学習のようなイメージだろうか.
さて,前置きが長くなったがこれによりだいたい説明が付く.
“her”が誰なのか
⇒これは「ドロシー」を示す.伝達物質内の多くの人がドロシーのことをプレイヤーには忘れて欲しくないと思っている.
難しい言葉を使っている理由
⇒伝達物質内でまとまった思いを出力する(ここで言うなら歌詞にする)時にドロシーの思考が流れ込んだと考えられる.
One plus one, just me and you.
⇒ここでまた説が分かれるが,
1.プレイヤーも伝達物質に取り込もうとしている
2.伝達物質と一つにしようとする意思はなく,プレイヤーを個として認めている
このどちらだと思う.私は2.を推したい.
ドロシーは当初は文字通り一つになるしか平和を目指す方法はないと思っていたようだが,そうではないことに気づけたという証のように感じられはしないだろうか.
また,以下の歌詞についてよりおいしく読み取ることができる.
Take a picture, don’t forget her
Let it linger in your view
この歌詞では「忘れないでほしい」という思いが伝わるが,妙に視覚にこだわっているように感じられないだろうか.「忘れないで」というだけならただ”Don’t forget”でもいいのに,「写真を撮る」や「瞳に焼き付ける」など……
私はこんな思いが表れているのかなと思った.
伝達物質で一つになると,個としての姿かたちは残らなくなる.だからこそ個を忘れないためには写真など視覚に残るものである必要があるだろう(まぁ聴覚でも嗅覚でもいいのだが).
つまりは伝達物質内の人たちはドロシーだけはちゃんと個として忘れないで欲しいという強い思いがあった,と思うのだ.
伝達物質内の人たちは既に取り込まれていて後戻りはできないのだろうが,ドロシーだけでもまだ助けてやって欲しい,そんなメッセージがあるのかもしれない.
和訳について
今回は以下が和訳のポイント.
Tho the numbers, safe and sound
まず”Tho”について.これは”though”(けれど)を短縮した単語である.
次に,”safe and sound”.これは”sound”を名詞ではなく形容詞(健やかに,などの意味)として使っている.これをまとめて「無事に,異常なく」という意味になるわけだ.今回は数字に対して使われているので,意味が近く受け取りやすいニュアンスの言葉で訳している.
Let it linger in your view
直訳で「貴方の視界にとどまらせて」になる.曲全体のノスタルジックな雰囲気に合わせるため,今回の訳のようにした.
Falling for a simple dream
難しいのは”simple dream”.「単純な夢」では味気ないしぱっと見で意味が分からない.
今回は「飾らない夢」と訳しているが,私としてドロシーの持つ「幼少期のころから抱いている夢」というキャラクターの根底にあるものという意味で「飾らない」と使っている.
I live fully
歌詞では”I”と”live fully”が離れていたが,おそらくここで一つの文になるだろうと思った.
繋げれば英語からでも意味は分かるだろう.
編集後記的なもの
今回はアークナイツ ドロシーのイメージソング『Magic Theorem』を和訳して彼女の理想の夢の一端に触れてみた.
個人的にはドロシーの行いについて,自身の才能こそが「母親に認められていたもの」であり,「家族を奪った原因(本人の中では)」でもあるので,その才能で問題を解決する以外に自分を救う方法がなかったんじゃないかなと思っている(結果として救いはないし,ひどいことをしている).
大人になれれば,この方法は違っていると分かったのだろうが,夢見がちな少女のままであった彼女はそれに気づけけなかったのだろう.そんなドロシーの少女と研究者という矛盾が白昼夢のように歌われていたなと思う.
その他アークナイツ関連の記事はこちら.
ぜひお気に入りの一曲を探してみてほしい(記事が無かったらご連絡ください!作ります!).
このサイトの和訳記事では,「和訳の正確さ」と「読者の考える余地」に重きを置いています.
読者が正確に楽曲を捉え,理解を深めてもらえるよう,和訳にミスがあればぜひご連絡いただければ幸いです.
お読みいただきありがとうございました!
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